京都地方裁判所 昭和27年(行)15号 判決
原告 加賀田進
被告 国
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、昭和二十七年度予算の中、別紙目録記載の千八百二十六億三千万円は原告を含む日本国民において納税義務なきことを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、内閣提出昭和二十七年度予算案は昭和二十七年三月二十七日衆参両院を通過し総額八千五百二十七億六千五百万円の予算の成立を見た。然るにその中防衛支出金名義の六百五十億円、安全保障諸費名義の五百六十億円警察予備隊費五百四十億円、海上保安庁費七十六億三千万円、合計千八百二十六億三千万円(予算総額中二割一分四厘)は日本国憲法第九条で禁じられている戦力の保持に支出せられる予算であつて無効である。従つて日本国民は右年度において課せられた所得税中二割一分四厘については納税義務がなく、原告自身においても右年度の所得税額三千二百円中二割一分四厘につき納税義務がないからその確認を求めると陳述し、被告の答弁に対し、国民の納税義務は直接には税法により課せられるものであるけれども国家財政は歳出予算を先ず計上し、これに基づいて歳入予算が定められ、更に之を基礎として国民に対し具体的な納税義務を税法に規定するに過ぎないから法律上も歳出予算と税法とは関連があつて、被告の主張は理由がないと述べ、
被告国指定代理人等は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、昭和二十七年度一般会計予算の構成が原告主張通りであることは認めるが千八百二十六億三千万円の防衛支出金等の予算は憲法第九条に違反するとの主張は争う。本来国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うのであつて、納税の義務及び納税額は専ら税法により定まり予算との間に法律的関連は寸毫もない。歳出予算は、予算の定める処に従つて、国費を支出することを要するという意味において政府を拘束するが、歳入予算はその年度における収入の見積乃至は測定に過ぎず、予算そのものからは何等の拘束も生じない。これを租税収入についていえば当然自明のことではあるが、政府は税法の定めるところによつて租税を徴収し、予算により租税を徴収するのでもなければ、予算によつて徴収権を与えられているわけでもない。国民の納税義務と政府の徴収権は憲法に由来し、法律により定まつているのであつて法的には予算そのものとは全く無関係である。従つて歳出予算の一部が無効であればその限度において納税の義務がないという訳にはゆかない。原告の主張は立論の基礎において誤まつており、それ自体理由のないものであるから請求棄却の判決を求める。尚原告は広く国民のため国民一般において納税義務のないことの確認を求めているが、この部分については原告には確認の利益もなく且亦当事者適格もないから却下の裁判を求めると述べた。
三、理 由
凡そ確認の訴に於ては確認を求める法律上の利益あることを要し、その法律上の利益ありとするには地方自治法第二百四十三条の二、公職選挙法第二百三条、第二百四条等特別の規定ある場合を除き、被告が原告の有する既存の法律関係を争い、これが為原告の法律上の地位に危険を生ぜしめ若くはその虞あることを要する。本訴は昭和二十七年度予算中軍事費に該当する千八百二十六億三千万円は、原告を含む日本国民において納税の義務なきことの確認を求めるものであるが、抑々国の予算は、国会が政府に対し一年度間の財政計画を承認する意思表示であつて、専ら国会と政府との間に効力を有するに止まり、国民の権利義務には直接の関係がない。国民の納税義務は、具体的には所得税法その他の税法によつて定まるもので、国会が如何なる予算を議決しやうとも、何等それによつて国民の納税義務が左右されるものでないことは敢て多言を要しない。然らば仮に昭和二十七年度の国家予算中、原告主張部分の支出が違憲であるとしても、これにより原告自身の昭和二十七年度の納税義務には毫も影響がなく、原告の法律上の地位には何等危険を生じていないものと云はねばならない。若しそれ原告以外の第三者たる日本国民に至つては不特定である許りでなく、原告と何等法律上の関係がないこと明白であるから、結局本訴は全部訴の利益を欠き不適法として却下を免れない。
仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の如く判決する。
(裁判官 岡垣久晃 千葉実二 岸本五兵衛)
(別紙目録省略)